光学系のレンズに使われるガラスには、内部の屈折率が均一で光の吸収が少ない特別なガラスが使われます。このように、レンズの材料として特別に作られたガラスを光学ガラスと呼びます。
ガラスというと真っ先に思い浮かぶのは窓ガラスではないかと思います。ただ、窓ガラスでレンズを作ったとしても、良い光学レンズはできません。レンズは、その表面で光線を屈折させることで像を作るので、レンズ内部では光線がまっすぐ進んでくれないと困るのです。
ところが、窓ガラス内部を詳細に調べると屈折率にムラがあります。これを脈理といい、ガラスを溶かして固める際に生じた屈折率の不均質な部分です。
光というのは屈折率が高い方に向かって曲がる性質がある為、窓ガラスの中では光線が微妙に曲がり、写した像にボケが生じてしまいます。
光学ガラスには、この脈理が生じない様工夫がされて製造されています。光学レンズの材料として広く使われているBK-7という光学ガラスの場合、屈折率(nb)は1.5168となります。このBK-7ガラスブロック各部の屈折率は±0.000005というわずかなバラつきに抑えられています。
光学ガラスのもう一つの特徴といえるのが透明性です。窓ガラスに使われている板ガラスそのものを、正面からみると無色透明に見えますが、横から見ると深い緑色をしているのがわかります。実は、これはガラスがかなり光を吸収しているために生じる現象なのです。
薄い方向から見たときに透明に見えるガラスも、厚い方向から見ると不透明さが露呈してしまいます。複数のレンズを組み合わせて使う光学系では、レンズ全体で相当に厚くなる場合があります。
また1枚のレンズでも厚いレンズが作られる時がありますので、光の吸収で写した像が暗くなることが無いように、光学ガラスは透明性が非常に高く作られています。たとえば、先程のBK-7というレンズは、100mmの厚さになっても光の吸収は1.6%しかありません。
さらに、光学レンズは特定の色の光を吸収することがあってもいけません。すべての色の光、つまり紫外域から赤外域までの色をどれも同じようによく透過させなければ不都合が生じます。
このように、多くの光学ガラスはほとんど無色透明です。もっとも一部の光学ガラスは屈折率調整するために、やむなく紫色の透過率を犠牲にしています。この場合の光学ガラスは黄色がかって見えます。
レンズの性能を高める為には、多様なガラスで作ったレンズを組み合わせる必要があります。性能の良い一眼レフ用交換レンズ等になると、20枚前後ものレンズを組み合わせて鮮明な像ができるよう設計されています。
レンズの収差を補正するためには屈折率の低い材料から高い材料、分散の大きな材料から小さな材料まで、様々な材料が必要になります。多様な材料を選択できるほど性能の良いレンズが設計できるので、新しい材料が次々に開発されています。
レンズの歴史は、一方では新しいガラス材料の発達の歴史とも言えます。
【参考文献】
永田 信一『図解 レンズがわかる本』日本実業出版社