表面熱処理とは

金属の表面に元とは違った必要な性質を持たせるための処理です。すべての表面処理は、原子の拡散によって成り立っています。拡散とは、一定空間内の気体の濃度分布が一定でないとき、気体分子が高濃度領域から低濃度領域に時間とともに移動し全体が均一になり濃度差がなくなる現象を言います。この現象は気体同士の関係だけでなく、個体+個体、個体+液体、個体+気体の関係であっても熱エネルギーを与えることでまったく同様に起こるものです。この現象が表面熱処理の原理となります。

表面熱処理を分類すると表面焼き入れ、熱拡散処理の2つに分けられ、それらがさらに枝分かれします。これらは加熱によって表面処理を行うもので、表面では原子の拡散現象が必ず生じています。表面焼き入れには、炎焼き入れ、高周波焼き入れ、電子ビーム焼き入れ、レーザー焼き入れがあります。一方、熱拡散処理は、金属拡散と非金属拡散に分かれます。

金属拡散は下記に分類されます。
・クロマイジング(クロム)
・ナルミナイジング(アルミニウム)
・炭化物被覆(バナジウム、クロム)

非金属拡散は下記に分類されます。
・浸炭処理(炭素)
・浸炭窒化処理(炭素+窒素)
・窒化処理(窒素)
・軟窒化処理(窒素+炭素)
・浸硫処理(硫黄)
・浸硫窒化処理(窒素+硫黄)
・浸硼処理(硼素)
・水蒸気処理(酸素)

表面熱処理の目的

表面熱処理の目的の多くは表面硬化です。もともとの母材自体を固くさせることで耐摩耗性や耐疲労性を向上させます。表面熱処理の方法で硬度の差異はありますが、ビッカース硬度でおよそHv1000程度が見込めます。現代において、鉄鋼材料を中心に熱処理は金属材料にとって必要不可欠な技術となっており、様々な分野でその技術は使用されています。

焼き入れ、焼き戻しについて

焼き入れとは、金属を800℃以上の高温に加熱して炭素を金属の中で固溶させた後に急速に冷却をして、炭素が過飽和に固溶した状態のまま常温にする作業です。固溶する炭素の量が多いほど高硬度を得られます。焼入れを行うことで硬さを向上させ、焼戻しを行うことで靭性を持たせます。焼戻しを行うと硬さは若干低下しますので、硬さと粘り強さのどちらを重視するかで焼戻しの処理温度を調整します。硬さ重視の場合は低温焼戻し、粘り強さ重視は高温焼戻しとなります。焼入れ効果を得られるのは、炭素量が0.3%以上の鋼材です。

例えば、SS400材やSPCC材は母材に含まれている炭素量が0.3%以下なので、焼入れ・焼戻しをしても効果はありません。炭素量0.3%~0.6%のS-C材(機械構造用炭素鋼鋼材)は炭素量が多くなるほど焼入れ後の硬さは増します。炭素量0.6%~1.5%のSK材(炭素工具鋼鋼材)では焼入れしても硬さは頭打ちで一定になりますが、耐摩耗性は向上します。焼き入れをする目的としては、金属自体の硬度を向上させ耐摩耗性を上げる、母材の変形を防ぐなどが挙げられます。