PVD・CVD方式による表面処理を総称して、ドライコーティングなどと呼びますが、ドライコーティングを行う上で、真空という状態が必要不可欠となってきます。空気がないと言われている宇宙ですが、実際は全くないというわけではなく空気が非常に薄いという表現の方が正しいかもしれません。
辞書などを調べると、真空とは「空気などの物質が全くない空間、または状態」などという言葉で解釈されていますが、真空にも段階があり、大気圧を1013hPa×10⁵とした場合、低真空10⁵~10²、中真空10²~10⁻¹、高真空10⁻¹~10⁻⁵、超高真空10⁻⁵という4段階で区分されています。(JIS Z 8126-1(1999))
基本、高真空状態で処理を行います(不活性ガスなどを用い、荒らすこともある)が、高真空に至るまで一気に高真空状態に出来るわけではなく、それぞれの真空状態に合わせた真空ポンプを用い、段階的に真空度を高めていく必要があります。
弊社の所有の装置で言うならば、大気~低真空⇒ロータリーポンプ、低真空~中真空⇒メカニカルブースターポンプ、中真空~高真空⇒ターボ分子ポンプ、拡散油ポンプ、クライオポンプなどの段階を経て、超高真空に近い高真空まで到達させます。
真空状態にすることにより、どのような効果が得られるのか?
①光輝加熱(製品に高温が掛かった場合、酸化しない。)
②表面洗浄(酸化物を還元させる事が出来る。)
③脱脂(油脂類を分解させる。)
④脱ガス(付着しているガス・不純物を放出させる。)
⑤蒸発(蒸気圧の高い金属を蒸発させる。)
こういった、大気中ではあり得ないような効果を得ることが出来ます。大気に近づけば近づくほど、より多くの不純物があることになるので、純度の高いドライコーティングを処理したい場合には、超高真空に近い状態をいかに維持出来るかがポイントとなってきます。
処理を重ねた場合、どうしても装置内がコーティングされた物質の残りなどで汚れてきます。そうすると、内壁などに水分・不純物などが付着し始め、到達真空度が低下してきます。毎回装置内のメンテナンスを行えば解消出来得る問題ですが、メンテナンス自体も時間が掛かりますので、適した真空度をいかに長く維持できるかも装置オペレータの腕の見せ所となります。